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当ブログの筆者は、特に韓国に対して思い入れやこだわりがあるわけではないのですが、どうしても、隣国ということで情報量が多いせいもあり、様々な情報が流入してきますので、情報をまとめた上で、このブログに記載したします。
単に隣国というだけで、韓国を特別扱いするつもりは全くないのですが、良心的兵役拒否を未だに合法化していない数少ない国家でありますので、その実情に言及しないわけにはいきません。 さて、今回の記事では、韓国の徴兵制の現状を知るために有益な「漫画」をいくつかご紹介します。以前の記事で書籍はいくつかご紹介していましたが、中々、活字を読む時間が無いという人もいるかと思われますので、漫画で知ることも一つの手段として有用でしょう。 まず、『軍バリ』という漫画をご紹介します。これは、首都大学東京教授である宮台真司の研究室へ留学していた韓国人男性が描いた漫画で、自身の徴兵経験をモチーフにしつつ、様々な創作要素も加えて描いた作品となっています。 次に、『フォーナイン ~僕のカノジョの637日~』という作品をご紹介します。こちらは、2014年4月25日に出版された雑誌『ビッグコミックスペリオール』第10号で連載が開始された漫画です。 両作品に通底しているのは、徴兵義務を「避けられない運命」として捉え、その義務の是非自体を問うようなメッセージは一切ない、もしくは、「必要なものだから仕方がない」という現状肯定の観点で描かれている点です。 両物語の中で、徴兵反対運動や兵役拒否者のことは肯定的に描かれることはありません。『軍バリ』においては、アメリカ国籍であるため兵役義務が無い男性を女性が殴るシーンが出てきます。 漫画に限らず、言論活動は自由であるべきですが、徴兵義務を真っ向から問いただすような言論は韓国では徹底的に封殺されているようです。インターネット上でも、徴兵逃れの手法などを論じるだけで、兵役法違反ないし幇助で検挙されるようです。仮に検挙されなくても、多くの韓国人(特に兵役を終えた男性に顕著)は、徴兵拒否者を義務を履行しない凶悪犯罪者のようにみなし、徹底的に糾弾するので議論が成り立たないと言える状態です。 もちろん、そういう厳しい世論の中でも、兵役拒否者を支援したり、良心的兵役拒否と代替役務を合法化するように訴えている市民団体も存在しています。しかし、韓国の世論を動かすまでには至っていないようです。 ただ、今回の記事で紹介した2作品の内、後者の『フォーナイン ~僕のカノジョの637日~』の方に関しては、まだ連載が始まったばかりなので、今後、どのようなストーリー展開になるのかは分かりません。良心的兵役拒否や徴兵制度そのものに対する是非を問うような内容は、描かれるとしても批判的にであって、肯定的ないし中立的に描かれる可能性は低い気がしますが、何か今後、作品中で『軍バリ』とは異なるメッセージがあるかどうか注目したいと思います。 |
以前、このブログでアメリカの兵役制度について記事を書きましたが、その中でアメリカ人社会学者Warren Farrellについて触れました。
ところで、最近、Farrell氏が執筆した" The myth of male power "の日本語訳が出版されたようです。今までは英語の書籍しか無かったので、中々、手に取りにくい部分もありましたが、今後は英語が苦手な方でも気軽に読めるようになると思われます。 日本語の題名は『男性権力の神話――《男性差別》の可視化と撤廃のための学問』というもので、作品社から2014年4月17日に出版されたばかりです。徴兵制や戦争のことも取り上げられているので、是非一度読んでみるべき書籍だと思われます。 |
久々の更新となります。多忙につき、更新頻度が減っていることをお詫びします。
今回は、韓国の兵役制度に関して、久しぶりに書きます。以前に、このブログでは3回に渡って韓国の兵役制度に関して記事を書きましたが、今回は「徴兵逃れ」「兵役拒否」に焦点を当ててみたいと思います。 以前の記事で述べたように、現在に至るまで韓国では良心的兵役拒否は合法化されていません。そのため、年間約700人から800人が兵役法違反の罪で刑務所へ収監されています。 しかし、中には様々な方法で兵役を逃れることに成功している人物も少数存在しています。いくつかの例をご紹介いたします。 まず、最初にご紹介するのは、カナダ政府へ「亡命申請」した方に関してです。この方は、「同性愛」であると自称した上で、韓国軍は同性愛者に対するいじめが存在するため、また、良心的兵役拒否も認められていないためという理由で、カナダ政府へ亡命を申請したようです。 <情報源> 同性愛の兵役拒否者がカナダ亡命…韓国で初めて
http://japanese.joins.com/article/507/146507.html 次に、ご紹介するのは、留学と称してアメリカへ出国し、そのまま10年以上、韓国へ帰国せず、カナダの市民権を取得した韓国人男性の例です。下記の情報源によれば、1998年の時に、27歳で出国し、そのまま期限の2年間を過ぎても帰国せず、兵務庁の召集令状なども無視して、10年以上国外で過ごした後、カナダの市民権を得て、韓国籍を放棄したようです。ただし、韓国は現在、「兵役を満了しないと国籍離脱を認めない」などという法律があるため、カナダ側では既に「カナダ人」になっているものの、韓国側では「まだ韓国人のまま」という認識であり、先日、韓国へ帰国した際に兵役法違反で逮捕され、執行猶予付きの判決が下されたため、そのまま強制送還となるようです。 <情報源> 兵役逃れのため「外国人」になった男、国外追放へ http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2014/04/04/2014040401273.html このように、決して例が多いわけではありませんが、様々な方法で兵役を逃れている男性も少なからずいるようです。韓国のインターネット空間では、兵役逃れの手法などを議論すること自体が取り締まり対象とされており、また、兵役を経験した者からは激しい非難の対象となることもあり、あまり、議論が活発化されているとは言い難い状態です。しかし、それでも、良心的兵役拒否の合法化を求める市民団体が存在していることも事実です。 韓国以外と韓国とで決定的な違いは、韓国においては良心的兵役拒否を「ズルいこと」のように捉える社会通念、世論が形成されてしまっており、個人の人権の問題、良心の問題として考える雰囲気が醸成されていないことでしょう。従って、良心的兵役拒否を認めないことが「正義」になってしまっている状態に陥っています。この韓国社会の実情を見る限り、すぐに良心的兵役拒否が合法化される見込みは低いと考えざるを得ません。しばしば、ノ・ムヒョン大統領が政権を取っていた時代には良心的兵役拒否に関して議論がなされたこともありましたが、結局は「国民世論が認めない」という理由で先送りになったまま、現在に至っています。 韓国はパク・クネ大統領という女性大統領が誕生し、また、韓国人初の宇宙飛行士に女性が選出され、女性省という官庁も作られているなど、女性の社会進出が進んでいる国家となっています。その一方、男性には徴兵制という過酷な、生命すら失う場合がある義務を強制的に課させられており、韓国人男性の中には男性差別だと考える者も一定数存在しています。そのような絶望的な社会状況の中、誰からの支援も受けることが出来ず、一人孤独に国外へ脱出し、亡命申請をしたり、他国の国籍を取得するなどして、兵役を逃れる決断をした男性の個人としての精神力は凄いものがあると感じます。 |
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ノルウェーの徴兵制に関しての続報です。
先日、ノルウェーで徴兵義務が男女ともに課せられる予定だと報道がありましたが、施行されるのは2015年からのようです。ちなみに、ノルウェー議会の政党の内、徴兵対象者を男子のみから女子へも拡大するのに賛成したのは、労働党、中央党、左派社会党、保守党、自由党、進歩党の6党で、与野党・左右問わず、圧倒的な賛成多数で法案が通過しました。しかし、唯一、キリスト教民主党という政党のみ反対に回ったとのことです。 また、議会政党ではありませんが、女性団体である「ノルウェー女性連盟」というグループの代表は、以下のような反対意見を述べています。 「現在、女性は、志願すれば兵役につけます。それが義務に変わると、誰もが軍隊に入らなければならない。基本的な社会業務のために、女性は男性よ り時間をとられています。その現状を考えると、まったく後退。権力と資源における男女格差を縮めることは必要です。男女間に実際に存在する差異を知らなす ぎますね。若い女性たちは、男子と同一ではないのは軍隊だけなどと言いますが、この措置には、総合的な社会分析と政治的討議が必要なのです」(引用元: http://frihet.exblog.jp/20383846/ ) どうやら、ノルウェーにも日本のフェミニストのような理屈で、女性のみの徴兵免除を正当化する集団もいるようです。上に引用した文章の中で、「誰もが軍隊に入らなければならない。」などと述べて批判している部分がありますが、これは男子にとっても同じ話でしょう。男子は誰もが軍隊に入っている(実際には、ノルウェーはかなり広範に免除が認められており、良心的徴兵拒否も合法です。なお、70数人を射殺した大量殺人犯のブレイビク容疑者も徴兵免除でした。従って、男子全員が徴兵に服するというのも、あくまでも理念上の話です。)のだから、女子の場合のみ、それを問題視する姿勢は不平等だと言わざるを得ません。そして、「基本的な社会業務のために、女性は男性よ り時間をとられています。」という部分に関してですが、これは単にメイクする時間だとかオシャレする時間などという話ではなく、おそらく、妊娠・出産を想定していると思いますが、「妊娠や出産(まして、メイクやファッション)は義務ではなく、自由意思で拒否も可能だ」という点を無視してはならないでしょう。つまり、この女性団体代表の理屈は、志願である妊娠・出産と義務である徴兵を同じ土俵で論じており、議論として成立していないと思われます。しかし、女性団体の代表を務めているのですから、筋道が通らなくても、理屈が変だろうとも、とにかく、女性にとって得になるような主張であれば、何でも発言するという姿勢なのかもしれません。 |
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しばらく、ブログ記事の更新が滞っていました。多忙につき、中々更新が出来ませんが、暇を見て少しずつでも更新していきたいと思います。
2011年と2012年の2年間、トルコでは徴兵制の大改正が実施され、今までと大きく制度が変更されたようです。 ・高卒と大卒以上での期間の差を無くす(両者とも90日間?) ・金納代替制度(100万円程度を収めれば兵役免除)の実施 ・警察官として10年間勤務すれば兵役免除 ・教育代替制度、研究代替制度(初等教育の教員や大学教員などをすれば基礎訓練の3週程度で兵役終了) など、様々な制度改正がなされたようです。これは憲法裁判所の判断、欧州評議会の人権無視との批判、兵役法違反の容疑で良心的兵役拒否者を検挙し、起訴する検事の間からも「良心的兵役拒否を認めるべきだ」との声が出始めていることが原因にあるようです。しかし、やはり「良心的兵役拒否は認められない」と頑なに言い続けている者もいるようで、公式には「良心的兵役拒否はこれまで通り認めない」と今のところは政府要人は述べています。ただ、金銭を納めることで兵役を免除可能になったわけで、事実上の良心的兵役拒否の合法化と言って良いでしょう。少なくとも、韓国の「産業機能要員」(試験や資格取得が必要で対象人数も少ない)よりは、間口が広い制度だと思われます。これはトルコの首相の主導で行われた改正のようです。現首相の息子もお金を支払って28日間の基礎訓練のみで兵役を終える制度を利用しました。これまでも、国外に3年間連続滞在すれば、お金を支払うことで兵役期間短縮(4週間程度)という制度がありましたが、今回の改正は国内居住者でも誰でも対象となるようです。とうも、トルコの新聞を読む限りの印象ですが、トルコの実情は厳格な韓国の制度よりは、良心的兵役制度も根付き、4ヶ月の訓練期間のみとなった台湾に近いものになっているようです。なお、銀行が「兵役ローン」なるものを開始したらしく、貧しい家庭出身でも、ローンを組めば金銭での兵役免除を獲得できるようです。 詳細は、下記のリンク先を参照。 http://www.el.tufs.ac.jp/prmeis/html/pc/News20111123_073425.html http://www.el.tufs.ac.jp/prmeis/html/pc/News20111123_074709.html |
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今回は、日本に限定せず、世界の徴兵制の歴史に関して概観します。
世界の様々な地域・国家においても、徴兵制が施行された時期とそうではない時期とが存在します。まず、ヨーロッパに関して目を向けると、古代ギリシャにおいては成人の自由民男子に対して兵役義務が課されていましたし、古代ローマにおいては「マリウスの改革」までは徴兵制がローマ市民権を持つ成人男子に課せられていました。これらの兵役義務は参政権と表裏一体のものであり、古代ギリシャにおいては「ポリスの参政権を得る代わりに、ポリスを防衛する義務を課せられる」、古代ローマにおいては「ローマ市民権や参政権を得る代わりに兵役の義務を課せられる」という構造でした。従って、奴隷や女性など参政権が無かった者には兵役の義務も存在しませんでした。 |
多忙により、更新が滞っていました。久しぶりに記事を書きます。
前回、古代から明治維新前までの日本の徴兵制の歴史について概観しました。今回は、明治維新後から太平洋戦争敗戦までの日本における徴兵制の歴史について論じようと思います。 明治維新の後、欧米列強の軍事制度を模倣して「徴兵令」が施行され、20歳の男子に対して「徴兵検査を受ける義務」が課せられるようになりました。この徴兵検査によって、甲種、乙種、丙種、丁種という段階に分けられ、甲種に判定された男子の一部だけがくじ引きで実際に軍に入営させられるという状態となりました。当初は男子のうちの1割~2割程度が実際に入営する程度であり、当時は「外地」扱いであった北海道に戸籍を移したり、大学に進学するなどして合法的に兵役免除になる割合も高いものでした。夏目漱石は北海道に本籍地を移動させることにより兵役免除となっていますし、他にも大学を卒業すれば徴兵免除という規定があったので、兵役逃れの目的で進学する人も多かったようです。 しかし、日露戦争が勃発して、それまでは甲種判定であってもくじ引きで一部だけ入営していたのですが、甲種に関しては全員入営させられる状態となりました。ただし、大学大学中は徴兵猶予の特典が与えられており、卒業すれば徴兵免除となったので、そのような合法的手段により兵役を逃れる人もいました。その当時、「非戦論」という思潮が存在し、公然と日露戦争に反対する世論も一定の強さを維持していましたが、結局、良心的兵役拒否運動が組織化されることはありませんでした。内村鑑三などは非戦論を唱える一方で、兵役拒否に関しては否定的であり、徴兵拒否を相談しに来た青年に対して、「家族や親戚のためにも兵役には行った方が良い」と述べています。内村の無教会派のキリスト教の考え方は、要約すると「自分が兵役拒否することで、代わりの誰かが死ぬことになるのならば、自分が犠牲になれ」というものでした。ここが日本の「非戦論」の限界であり、欧米諸国で組織化された良心的兵役拒否運動とは異なる部分でした。これに対し、欧米諸国では第一次世界大戦の頃から良心的兵役拒否の運動が組織化され、イギリスやアメリカでは代替役務が制度化されました。なお、日本でも数名のエホバの証人の信者が個人的に兵役拒否を行い、兵役法違反で有罪判決を受けるものも存在しましたが、組織化された運動ではなく、代替役務も合法化されないままとなりました。 日露戦争終結後は、再びごく少数の甲種合格者のうちの一部だけがくじ引きで入営する時代がしばらく続きました。大正時代は政治的には「大正デモクラシー」と呼ばれるリベラルな風潮であり、第一次大戦の後の国際的な軍縮時代でもあったため、軍の兵員も限られたものとなり、徴兵もごく一部の者に限られていました。 しかし、昭和時代に突入すると、じわじわと軍国主義的な思潮が論壇を支配するようになり、軍備の拡張、兵員数の増加がなされることとなりました。中国大陸への進出と戦線の泥沼化により、兵員数の増強が軍部から求められるようになり、再び甲種合格者は全員入営させられる時代が到来します。ただし、まだ大学卒業による徴兵免除の特典は残っており、合法的に兵役を免除される者も存在していました。昭和10年代(1935年~1945年)に入り、日独伊防共協定、更には、日独伊三国同盟が結ばれ、本格的に中国大陸や東南アジア諸国へ石油などの資源を獲得するために進出することとなり、甲種だけではなく乙種までも徴兵される事態になりました。更に1941年に東条英機が首相であった際に、アメリカの真珠湾への攻撃を行って日米で開戦することとなり、日本軍の兵士の数が急激に増え、徴兵される者も爆発的に増えていきました。一旦、兵役に服した者に対しても繰り返し召集令状が出され、何度も戦地に出征する人が増えていきました。 そして、1943年(昭和18年)になると、大学在学中の徴兵猶予特例が停止され、文科系の大学生に対する徴兵検査が実施され、甲種と乙種に分類された者は、大学を休学して軍隊に入営させられることとなりました。これを「学徒出陣」と呼びます。ただし、丙種に判定された者と理科系学部・学科に在学中の者は引き続き猶予されたままとなりました。この「理科系」に関してですが、農学部に関しては徴兵猶予が継続される学科と継続されない学科があり、農業経済学科に関しては「文系」と見なされて徴兵猶予が停止され、学徒出陣させられました。また、1944年頃には丙種も徴兵対象とされるようになり、手足が無い、耳が聞こえない、目が見えない、理科系に在学中などの一部の者を除いて、殆ど全ての男子が徴兵される事態となりました。終戦直前の1945年には徴兵率は9割にまで上昇し、日本軍の兵員は700万人を超えていました。特に、1943年に学徒出陣した年代が最も悲惨であり、入学前に徴兵猶予が停止されるということを事前に知らされていなかったために、文科系に入学してしまい、そのまま休学して入営し、特攻隊や玉砕部隊に配属させて戦死させられた人数が多くなりました。1944年に大学に入学した者の場合、事前に文科系は徴兵猶予されないという情報を聞いていたため、文科系から理科系に進路変更をする者が多数存在し、大学の側でも理工系の定員を増やし、文科系の定員を縮小する措置を取ったため、本来は文科系の学問を学びたいという希望を持つ者までも理工系の学部へ入学するようになりました。また、この時期は軍医の不足を補うために、「医学専門学校」が多数、設立されており、本来は大学の医学部を卒業しないと医師免許を取得できないはずが、専門学校卒でも取得できるようになっており、兵役逃れの目的で入学する者も多数存在しました。この種の徴兵逃れ目的で理工系や医専に進学した者は、終戦と同時に文系に転向する者が多数現れました。 そして、1945年8月15日に終戦となり、徴兵制は廃止されました。その後、現在に至るまで日本においては徴兵制は施行されていない状態が続いています。 |
更新が滞ってましたが、久しぶりに記事を書きます。
今回は、個々の国・地域から一端はなれて、徴兵制の歴史に関して概観してみようと思います。 人類の歴史では、徴兵制が盛んに導入された時期と、そうではない時期があります。 日本の場合、古代には「防人」という名称の兵役制度が存在し、戸籍に登録されている男子が一定の割合で徴兵されて主に北九州の防備に当たっていました。当時は新羅との緊張関係が高まっていたためですが、実際には戦争は起こりませんでした。白村江の戦いの記憶がまだ語り継がれている時代(古代においては大戦争でした)で、朝鮮半島の脅威が身に染みて感じられたようです。ただ、この時代の戸籍制度というものは近現代のような高度に整備されたものではなかったので、逃亡する者も多数存在していました。 その後、平安時代になると「武士」と呼ばれる階級が登場し、ついには鎌倉幕府を成立させることになります。武士階級の成立によって、戦争・軍事は武士が専門的に行うようになり、日本では明治時代に至るまで徴兵制は消滅します。 |
今回は、イランの兵役制度について説明します。
現在、イランでは男性に対して徴兵制が課せられています。期間は18ヶ月(1年半)です。18歳で徴兵されますが、大学へ進学することが決まっている場合は入営が延期されます。ただし、浪人などは認められていないので、ストレートで合格する必要があります。入営が延期されても、大学卒業後に結局は兵役に就かなければならないことになるのですが、大学院へ進学する場合は更に延期が可能です。この場合も、ストレートでの進学が条件であり、浪人は認められていません。 なお、徴兵されて配属される部署は、学歴や専攻分野によって決定されるため、医学部を卒業した場合は軍医、工学部を卒業した場合は兵器開発部門など必ずしも前線の歩兵部隊で戦う職種に配属されるとは限りません。場合によっては警察に配属となって交通整理などの任務を与えられる場合もあるようです。しかし、自分の希望で配属部署を決められるわけではなく、また、良心的兵役拒否も認められていません。 イラン・イラク戦争の当時は、免除の条件が極めて厳しく、殆どの徴兵検査に合格した18歳の男性が徴兵されていましたが、その後、平和な時代が訪れると金銭で兵役の免除が可能となりました(ただし、最近再び、アメリカと緊張が高まっているため、この金銭による兵役免除が不可能になった)。また、父親が60歳以上であるとか、一人息子であるとか、本人が2人以上の子供の父親である場合なども免除となります。このような免除条件は頻繁に変更されます(戦時や平時、緊張度などによる)。その他、海外在住者の場合、兵役は免除となります(野球のダルビッシュ選手は父親がイラン人なので22歳までイラン国籍と日本国籍の二重国籍であったが、海外在住者なので兵役の義務はなかった)。 ※参考となるサイト ・イラン見聞録 ・IRIB(Islamic Republic of Iran Broadcasting) - 徴兵を免除されることはあるのでしょうか - イランの徴兵制度 ・イランの兵役義務期間はどのくらいでしょうか? |
今回はトルコの兵役制度に関して解説します。
現在、トルコでは徴兵制が施行されており、男子に対してのみ課せられています。兵役期間は高卒以下の学歴の場合は15ヶ月であり、大卒以上の学歴の場合は「将校として12ヶ月」か「二等兵として6ヶ月」を選択できるようになっています。なお、トルコの国外に連続して3年以上居住している場合、3週間の軍事訓練と約5000ユーロの支払いで兵役免除となります。 良心的兵役拒否は合法化されておらず、トルコ軍に加わりたくないという意思を抱く思想の持ち主や少数民族のクルド人が裁判で有罪判決を受け、軍の刑務所に収監されています。そのため、ヨーロッパ評議会からトルコ政府に対して非難決議が出されています。また、トルコ国内でもジャーナリストが良心的兵役拒否権を認めない政府や軍の姿勢を非難して、逮捕されたりしています。過去には、兵役から逃れるために亡命目的で飛行機をハイジャックしてヨーロッパへ脱出した者も現れました。 トルコはEU加盟を国策にしており、加盟のために死刑制度を廃止にしました。現在、ヨーロッパ評議会やアムネスティから非難を受けている良心的兵役拒否権を認めていない問題も、将来、EU加盟の目的のために合法化へ進む可能性が無いとは言い切れません。ただし、トルコ軍はトルコ共和国の「国父」であるケマル・アタトゥルクの世俗主義の拠り所であり、脱イスラムと近代化を成し遂げた自負があるため、「神聖な兵役義務」を容易に手放そうとしない可能性もあり、楽観的に考えるのも危険でしょう。 ※参考サイト ・トルコ男性の試練 ・東京外国語大学 Project MEIS 「日本語で読む中東メディア」(News from the Middle East) http://www.tufs.ac.jp/common/prmeis/fs/ |
今回の記事では、アメリカ合衆国の兵役制度に関して説明します。
現在、アメリカでは徴兵制は「停止」されており、志願制になっています。何故、「停止」という表現を用いるのかというと、厳密には徴兵制がまだ継続されており、徴兵登録制度が18~25歳までの男性に強制されているからです。この徴兵登録制度は、Selective Servise System(SSS)と呼ばれているもので、アメリカの国籍または永住権を持っている男性は18歳の誕生日になったら郵便局で徴兵登録をしなければ罰金刑に処される可能性があります。また、永住権を持ってる場合は登録拒否が可能ですが、本来であれば5年で国籍取得が可能になるところが、SSSに登録しない場合、帰化が不可能となります。その他、SSSに登録しない場合、大学や大学院の奨学金を受給できないなど様々なペナルティーが科されることになります。 このように、今でもアメリカは男性にのみ徴兵登録(Selective Servise System)の義務を罰則付きで課しています。これは、本当の意味での徴兵制とは異なるかもしれませんが、国防省の徴兵名簿への登録ですので、徴兵と密接に関係がある制度です。なお、この男性のみに対する登録義務を「男性差別」だとして裁判を起こした例がありますが、1981年6月に連邦最高裁で「選抜徴兵法が男性だけに選抜徴兵登録を義務とすることはアメリカ合衆国憲法修正第5条に違反しない」と合憲判決が下され、現在に至っています。なお、この男性のみ課されている徴兵登録義務に関して社会学者のWarren Farrellは男性差別であると強く批判しています。 ※参考となるサイト ・Selective Service System 公式サイト ・Selective Service System(選抜徴兵局/義務兵役サービス) |
この記事では、ヨーロッパ諸国の兵役制度を概観します(参考資料)。
まず、現在のヨーロッパでは殆どの国家で徴兵制は廃止されており、志願制に移行済です。 しばしば、「ヨーロッパでは殆どの国が徴兵制だ」と言って、「兵役義務は主権国家にとって当然だ」という主張の根拠にする人がいますが、根本的に間違っています。30年前なら成立したかもしれませんが、21世紀の今では全く成り立たない議論です。西側諸国のイギリスやフランス、イタリア、スペイン、オランダ、ベルギーは全て志願制に移行していますし、ポーランドやチェコ、スロバキア、ルーマニアといった旧社会主義国も徴兵制を廃止して志願制に移行、更には、スウェーデンやドイツも近年になって徴兵制を廃止しました。 例外的に、今でも徴兵制を存続している西欧・中欧諸国は、ノルウェー(男子のみ対象、12ヶ月)、デンマーク(男子のみ対象、4ヶ月)、フィンランド(男子のみ対象、6ヶ月)、オーストリア(男子のみ対象、6ヶ月)、スイス(男子のみ対象、20歳の時に初任訓練15週+36歳まで数年ごとに年間十数日の補充訓練で合計260日)、ギリシャ(男子のみ対象、9ヶ月)の6カ国のみです。なお、これら存続国でも良心的兵役拒否が認められています。 |
今回のテーマは「丸刈り」です。
ちょっと個々の国の兵役制度から離れて、「兵役と丸刈りの関係」について考えてみたいと思います。 現在、志願制、徴兵制含めて様々な国で軍隊が存在していますが、入隊直後の新兵訓練で「丸刈り」を男性兵士に対して強制している軍隊と強制していない軍隊があります(ただし、丸刈りを強制していなくても、極めて丸刈りに近いスポーツ刈り程度の短髪を強制している場合もあります)。なお、新兵訓練を終えてからは丸刈り以外の短髪(スポーツ刈りなど)が認められるケースが多いです。 新兵訓練で丸刈りを強制される軍隊としては、以下の通り。 日本の自衛隊(男子の新規入隊者は丸刈り強制で「教育隊」に所属)、アメリカ軍海兵隊、ロシア軍、中国軍、北朝鮮軍、韓国軍、台湾軍 逆に、新兵訓練で必ずしも丸刈りを強制されない(ただし、短髪は強制される場合もある)軍隊は、以下の通り。 スイス軍、ドイツ軍、イギリス軍、スウェーデン軍、ノルウェー軍、フィンランド軍、デンマーク軍、海兵隊以外のアメリカ軍 スイス軍に関しては、訓練中にピアスの装着も認められているようです(swissinfoの写真を参照)。 第二次大戦の頃の徴兵されたアメリカ兵士の写真を見ると、多くが一般人と同じ髪型をしており丸刈りは殆どいません。ベトナム戦争の頃の徴兵されたアメリカ人の写真を見ても丸刈りは殆どいません。このことから言えるのは、軍事的な強さと丸刈り強制には何ら相関関係が無いということです。以上のことから分かるのは、丸刈りを強制する軍隊を持つ国家というのは人権無視あるいは軽視の傾向があり、良心的兵役拒否も認めていなかったりするということです。 |